おはよう


天界には時間の概念が無い。
日は沈まず月は昇らず、常に穏やかな陽気に包まれた空間が時折の柔らかな風を受けてたたずんでいるのだ。

そんな中で、天使と違い睡眠も食事も必要とする自分は酷く異質な存在で。
少しでも彼らに近付けぬものかと心を波立たせるのは仕方ない事だろうと自分に言い訳をした。

目が覚めた時、眠りに落ちる時、食事をする時食事を終える時。人間としての喜びを共有出来ないと言う事は、ほんの少しだけ私の心に朿を残してほんの少しだけ優しい天使達に距離を取らせる。
どうかどうか、この隔たりを取り払う事が出来ますようにと弱い自分を叱咤して、今日もまた身の内から沸き上がる睡魔に身を委ねて両の眼を閉じるのだ。

「やあ起きたのか。おはよう、イーノック。」

私を救うその一言が、紡がれるのは後数時間後の事だった。