今夜月の見える丘に


天界から見る地上と地上から見る天界の景色が違うのは当たり前だが、まさか夜空までがこうも違った景色に見えるなどと誰が想像したであろうか。
圧倒的な存在感と、全てを優しく包み込むような柔らかな光。煌めく星や佇む月に、思わず美しいなと呟くと、隣に座るアルマロスも嬉しそうな顔をしてゆっくりと頷いた。

地上に堕ちた当初は気の乗らない堕天であった事も重なって暫く塞ぎ込んでいたが、地上の素晴らしさには心動かされるものがあったのだろう。最近では笑顔や笑い声もよく見られるようになった。
「良かったよ。」
「?」
「お前が笑うようになってくれて。」
長い髪をわしわしと撫でて顔を覗き込むと、唇の動きだけでそれに答える。
『もう、一人じゃ、ないから。』

ふわりと揺れる笑顔を抱き寄せた時、俺の目にはもう夜空など見えていなかった。