ひざまくら


「柔らかい。」
意外そうな声と見開いた瞳はぽつりと呟かれた言葉よりも雄弁で、眠る寸前のようだったイーノックがみるみる目を覚ます様子は何だか楽しかった。
「アストラル体だからな。」
イーノックが枕代わりにしている私の膝は、見た目こそ男のそれで固そうな姿をしているが、私の意識一つで羽を閉じ込めた袋のようにも岩のようにもなる。
今の私の膝は女の膝…いやもっと柔らかい…そうだな女の胸のような感触に設定しているから、イーノックのこの驚きも無理は無い。

「ふへへ、良いだろう?それとも、もう少し固い方が好みだったか?」
膝に散らばる金髪をわしゃわしゃと掻き乱しながら訪ねると、大丈夫だ問題ないといつも通りの答えが返ってきたのに安心する。
「凄く気持ちが良い。…ただ、自惚れてしまいそうで怖いんだ。」
瞼を閉じて甘えるように頬を膝に擦り付け、私の腰を抱く。うっとりとした表情は本当に気持ちが良さそうで、この感触を気に入ってくれたのかと嬉しくなった。
「うん?何に自惚れると言うんだ。」
「だって、貴方はいつも私の一番好きな姿になってくれる。顔だって、肌だって、この膝の感触だって。私専用に創られたのではないかと勘違いしてしまいそうになるんだ。」
「私がお前専用に創られたんじゃなくて、お前が私の事を好き過ぎるんだろう。」
イーノックの言葉に思わず吹き出してそう訂正すると、それもそうかと言いながら釣られたようにコイツも笑った。