罪瞳と秘密


イヴの食べた赤い実は、きっと君の瞳のように魅力的だったんだろうな。

両手でルシフェルの顔を抱えたイーノックは、うっとりとしてそう言うと何時もの笑みを崩さないルシフェルへと顔を近付けた。

ルシフェルはいつもキスの時に瞳を閉じない。

迫る唇が思っていた位置より高いのを見て、額き口付けられるのかと少し期待が外れたような様子を見せたが、次の瞬間その二度目の予想もあっさりと覆された。
厚い舌がべろりと舐めたのは、赤い色をした右の眼球。

初めて感じたその生暖かい感覚にぞくりと背を震わせ、目の前に立つ逞しい身体に思わず縋り付く。
まるで情事の時のように全身から力が抜け落ち、イーノックが咄嗟に身体を抱えていなければ今頃地面にへたりこんでいただろう。

「何…を…。」

イーノックはこんなに狼狽したルシフェルは初めて見たな。とか、真っ赤になって慌てる様子が可愛いな。などと思いながら、比較的素直に自分の心情を吐露した。

「美味しそうだと思ったんだが、気持ちいいものなのか?」

そう言ってぐい、と腰を押し付ける。ルシフェルの反応に自分まで妙な気分になってしまい、昂ぶる身体を持て余す。

「気持ち良い訳では…無いが…変な感じだ。」

抱き締めた腕の中では、どうしたら良いのか解らないといった風にもじもじと脚を擦り合わせている。
本当に、こんな姿はとても貴重だ。

「じゃあ、気持ち良くなろうか?」

返事の代わりにキスが一つ。さあ、全身で。愛を語ろう。