運命を感じちゃって下さい


一目出会ったその日から、恋の花咲く事もある。

未来の格言だそうだが全くその通りだと言わざるを得ない。実際に何百、いや何億年の時間を渡り数多くの人間を見てきた私が、一瞬で虜となりその魅力に陥落してしまうなど、イーノックに出会うまでは想像すらしていなかった。
未知の感情に恐れ、戸惑っていた私だったが、幸いな事に衝撃的な恋に落ちたのは奴も同じだったらしく、不器用ながらも真摯に愛を告げてくるイーノックにこれからは二人で愛を育んで行こうと答えたのは少し前の出来事だ。

ともあれ、私達の夫婦生活は実に円満に営まれている。
今日もイーノック手製の食事で朝食を取った後、行ってきますのキスをしてそれぞれの仕事場へと赴く。イーノックは書記室に、私は早速神の元に。

「運命は神が決めているのか?」
記録したものを確認する為、携帯をカチカチと弄りながら尋ねたのは前々から聞きたかった事だ。
「私とイーノックの出会いはもう偶然とかじゃ片付けられないだろう。あんなのは全部君の采配なのか?」
ガブリエルがまた始まったと言うように視線を伏せたが無視だ。幾ら語ったって確かめたって、私のイーノックに対する愛は次々と溢れてただ増える一方なのだから。
問われた神はと言うと、心までは私でもどうにも出来ないよと言ったような事を返すと、お前が幸せそうで本当に良かったと頭を撫でてくれた。

そうなのかと納得して目を細めたが、しかしそれなら私は一体誰に感謝をしたら良いのだろうと内心で首を傾げて物思いに耽る。
こんな幸せが偶然だなんて、実は未だに信じられないんだよ。