反則も悪くないなと思いました


「駄目か?」
私のものより幾分か低い位置にある瞳をまるで子犬のように潤ませながらそう訴えかける。
制する為の言葉はいつまで経っても私の唇から出てくる事は無く、駄目だと言うその三文字がどうしても音に出来ない。
「ルシフェル。」
ずい、と一歩踏み出し距離が近付く。それと同時に左手首を捕まれて思わず肩を震わせた。これでは時間を巻き戻せない。

「…少し、考えさせてくれ。」
漸く返したのはそんな返事で、空いた方の手でそっと肩を押すと「待っている」とは言いながらも素直に解放してくれた。

どうしよう、本当に、どうしよう。
幾ら考えたところで答えなど出る訳が無いのも解っていた。本来なら切って捨てなければいけない所を、こんな風に断り切れず答えを先延ばしにしているのが何よりの証拠だ。きっと、次に請われた時だって自分は何の返事も返せない。

困った時の神頼みと人は言うが、それは何も人間に限った事ではなく、天使だって…いや天使であるからこそ、困った時は神に伺いを立てる。私も例に漏れず、イーノックからのお願いにどう対処すべきか悩んだ挙げ句、訪れたのは神の下だった。

何をうじうじしてるのか。と、それが神の第一声であった。

「だって…。」
思わず唇を尖らせそんなだだっ子のような返事を返す。
「あの目が反則なんだ。あんな子犬が縋るような目で見られて、断れる訳が無い。」
そうだ、何もかもそれが悪いんだだからイーノックの所為で私は悪くない。
ウンウンと一人で納得していると、神が何とも言えない生暖かい視線を送ってくるのが解る。
「まぁ今までだって、セックスもフェラも女装も全部許してやったんだし、今更SMくらい拒むことないよな。」
結論が出てしまえば先程まで悩んでいたのが嘘のように気持ちは晴れやかになり、やっぱり君に相談して良かったよ有難うと礼を告げて指を鳴らす。早くイーノックに会いたい。


神は一連の独り言を聞いておいセックス済みとか聞いてないぞと手を延ばしかけたが、既に遅くルシフェルの消え去った方角を眺めてもう好きにしなさいと言わんばかりにうなだれた。