甘い言葉に騙されてみました


堕天使捕縛が完了するまで触れ合い禁止だなどと、そんな事実を先に聞いていたのなら絶対にイーノックを行かせはしなかったのに。
地上に降りたその夜に早速襲い掛かろうとしたところ、私の身体が透けて本当に文字通り触れる事すらままならなかったのだ。
驚いてすぐさま神の元へと飛んでいき問いただした所、彼曰く、イーノックと触れられる肉体を持ったまま地上に降りてそのまま性行為に及んでしまうと、男性体だろうが女性体だろうが関係無くネフィリムが産まれてしまうらしい。だからって、だからと言って、ここまでする必要があるのかと言ったら「だって触れたらいつかは我慢出来なくなるだろう。」と返された。至極尤な意見過ぎてぐうの音も出ない。
ちなみにしょんぼりとしながらイーノックにその事実を伝えたところ、いつものドヤ顔で「大丈夫だ問題ない」と返されたので何だか腹が立ってその場から逃げてやった。私ばっかり求めてるみたいじゃないか。


***


「イーノックとセックスしたい。」
一週間程度で早々に音を上げたルシフェルは、べちゃりと神の膝に倒れこむと力なくそう呟いた。
やれやれと肩を竦める神の返事も聞かず、畳み掛けるように言葉を続ける。
「外で出せば大丈夫だろう。なぁ神。」
近くでその一部始終を聞いていたラファエルは、とんだ大天使があったものだと心の中で中指を立てたが、顔には出さずにただ黙って聞いていた。

その間もルシフェルはずっと、イーノックイーノックと何かを患った中高生のように喚き続ける。
やがて諦めた神が、よしじゃあこうしようと声を掛けたことで漸く口を閉じて顔を上げた。
神が提案したのは、一度イーノックとルシフェルの性欲を神が預かり、捕縛が終わった後にそれを返し同時に長期休暇も与えようという、ルシフェルを甘やかしに甘やかした条件だった。こんな育て方でよくもまあ他の天使達がまっとうに育ったものだと言うのはラファエルの弁である。

「つまり我慢した分終わった後に好きなだけイチャイチャして良いと?」
歯医者さん我慢したら後でお菓子を買ってあげようと言うレベルのやり取りに、ルシフェルはどうやら納得したらしく、「…なら頑張る。」と渋々うなずいてから大好きなイーノックの元へとすっ飛んで行った。
やれやれと溜め息を吐き、休暇を考えると早く捕縛を終わらせなきゃねと苦笑する神に、ラファエルもうんうんと首を縦に振って同意する。

まさかそれが四百年近くもかかるなどとは、その時は神ですら予想していなかった。