今日も空が青いから


爽やかな風が首筋を通り抜けるのに、思わず目を細める。
その風を運んできたルシフェルは、いつもと同じように唐突に表れると一瞬で距離を縮めて顔を寄せてきた。

「珍しいな、お前がぼんやりしてるなんて。」
緩く首を傾げ、私の瞳を下から覗き込むようにしてそう言うと、まるで口付けでもするかのように瞳を閉じて薄く唇を開く。
私もそれに応えるように目を閉じたが、いつまで経とうが唇どころか顔のどこにも何の感触も感じなかった。

もういいかと目蓋を開けば、ルシフェルは腕を伸ばして届くかどうかという距離まで離れており、せめてもう少し近付けはしないかと足を踏み出し手を伸ばす。

と、その腕が擦り抜けた。
「ふふ、駄目だよ。」
甘えるような声でルシフェルは私の手をなぞるが、その感触は皆無である。

ルシフェルに触れられたら、と考えた事は何度もある。キスをしたり抱き締めたり、ベッドに連れ込んでみたり。そんな触れ合いが楽しめたら確かに今よりもずっと楽しいだろう。けれど、触れられない今が不満かと言えばそんな事は決して無い。

「ルシフェル。」
私が一言名前を呼べばすぐ傍に立ち、甘い香りを風に乗せて送ってくる彼は、それだけで充分愛しいに決まっている。