輝石
「いいものを見せてあげよう」
ルシフェルがそう言ってイーノックを連れ出したのは、堕天使達を捕縛することが決まった時だった。
着いた先で見たものは、様々な財宝がまばゆく輝く宝物殿。
「見たまえ、これが人間界で最も偉い者が着る武具だ。」
そう言ってルシフェルは黄金に輝く鎧と白銀の盾を指し示した。おおよそ戦いには向かないであろうそれに、「これは祭りの時に使うものだろう」と言い返せば、彼は笑いながら首を横に振る。
「面白いだろう、偉い奴ほどこんな飾りのような鎧を好むらしい。身を守りたいのならもっと頑丈なものにすれば良いのにな。」
人間の考える事は解らないと言うが、この件に関しては人間である俺だって解らない。苦笑しながらその装飾品達を眺め回していると、ある一点で目が止まった。
「あ…。」
「どうした?」
思わず手に取ったそれは、女子供でも使えそうな小さな剣。
柄に一つ宝石が埋め込まれている他には装飾も無く、財宝に溢れた部屋の中では質素にすら見えた。それなのに目を引いた理由。
「この宝石の色、君の瞳によく似ている。」
深くて優しい赤に思わず心が惹かれ、これならば確かに戦の時に持っていたくなる気持ちも解るなと一人納得した。
ルシフェルはそんなイーノックを見て少し考える素振りを見せると、逞しい首にするりと腕を絡ませて首をかしげる。
「なら、その宝石をお前の鎧に付けようか?」
「いや、いいよ。」
照れ臭そうに答えたイーノックは、元の場所に剣を置くと目の前の頬に手を添えた。
「守ってしまいたくなるから。」
その返事にルシフェルは「なんだそれは」と笑ったが、まんざらでもなさそうに近付く唇を自分から奪いにかかった。