夜空がきれいだったから


ここ暫くは堕天使捕縛の関係で私もコイツも走り回っていたから、こんな風に穏やかな時間を過ごすのは本当に久しぶりだ。
立派な船にも関わらず、その上に立つのはたったの二人。勿論、私とイーノックの事だ。
数日前に立ち寄った港町で助けた男が、是非とも礼に受け取って欲しいと申し出たのを有り難く頂戴したのだが、イーノックは未だに良かったのだろうかなどとぶつぶつ言っている。良いんだよ、これも運命なんだから。

ともあれそんな経緯で船旅を開始したのは良いのだが、この船というものが中々厄介で、何もする事が無いのだ。
私やアークエンジェルが加護をしているから、まかり間違っても嵐などには合わず、更に風も至って順調に吹いているので帆を操作する必要も無い。のんびり出来ると言えば聞こえは良いが、要するにただひたすらこの場所でつっ立っている事しか出来ないと言う訳だ。

「退屈そうだな。」
先程からちらちらと私の様子を伺っているのには気付いている。
何か言いたげに唇を動かそうとしては止めるという行為を五回程繰り返した頃に、焦れったくなってこちらから声を掛けた。
イーノックは私から話し掛けるとは思っていなかったらしく、びくりと大袈裟に肩を震わせると何故か真っ赤になって、大丈夫だ問題無いと慌てたように首を振ってから、少し迷った末に一言ぽつりと漏らす。

「空、が、綺麗だな。」

未来でよく似た言葉を言った文豪が居た気がするが、果たして同じに取っても良いのだろうか。
何だか頬が熱いような気がするが、きっと気の所為だ。