きみが泣いている夢を見たから


嗚呼全く以て腹立だしい。
一体何なのだあの人間はと、爪を噛みながら睨み付けてやるが、相手は全く気付く様子を見せずに和やかに話し込んでいる。
そう、楽しそうに話し込んでいるのだ、そいつは。私の片割れであるミカエルと。

ミカエルは可愛い可愛い兄弟なのだが、何故だか私に対してあまり素直になってはくれない。遊びに誘っても仕事仕事とけんもほろろに断られるのが常である。
そしてイーノックがこの天界に来てからと言うもの、更にミカエルが私に構わなくなった。それもこれもイーノックの所為だ、ミカエルはこの頃アイツばかり構っている。

大体ミカエルもミカエルだ、どう考えたって私の方が美しいし大天使だし最高だし、絶対良いだろう。それなのに「ルシフェルでなく、イーノックが兄弟なら良かったのに。」とは何事だ。思わず隠れて聞き耳を立てているのも忘れ飛び出して行きそうになったじゃないか。

不機嫌を隠す事も無く歩いていると、間の悪い事にその諸悪の根源と出会ってしまった。
「ルシフェル!」
しかも嬉しそうな笑顔付きで。

唯一、イーノックの好きな所を挙げるとしたら、コイツはミカエルよりも誰よりも私の事のが好きであると言う部分だ。どれだけ夢中で話し込んでいても、私が姿を現せばまるで忠実な犬のように反応しこちらへと駆け寄ってくる。

しかし普段なら優越感に浸る事の出来るその事実さえも今の私にはイーノックの余裕のように感じてしまい、ついつい感情を露にしてしまった。
「ミカエルは私の兄弟なんだからな!」
はっと気付いた時には既に遅く、隠れて聞いていた事がバレてしまったと、指を鳴らそうとしたが寸での所で止められてしまう。
「ミカエルの話を聞いていたのか?」
朗らかな笑顔のまま尋ねてくる姿に、何だか居たたまれなくなって視線を反らし頷いた。

「ならルシフェル、私と結婚しよう。」
「は?」
何を言っているんだコイツは。

「私と貴方が結婚したら、ミカエルは貴方と私の両方の兄弟と言う事になるだろう?」
いやまぁ確かにそれはそうだが、いきなり結婚と言われても正直困る。どんな理論だおかしくないかと目を白黒させていると、駄目押しで更に言葉は続けられる。

「私はルシフェルを心から愛しているし、尊敬しているから。」
だから結婚しようと全力のドヤ顔で求婚してくるイーノックに、断る言葉など準備出来る筈も無かった。