無敵遊戯


しゅるしゅると布が擦れるような音と共にイーノックの身体を光の糸が包み、やがてその光は硬質な白い鎧へと姿を変えた。
鎧を見回し、掌を何度が握って動き心地を確かめると、大地に降り立ち真っ直ぐに駆けて行く。
ルシフェルは暫く上空でその様子を眺めていたが、ジーンズに入れていた携帯が音を立てたのに気付くと視線をそちらに移し、忙しく震える黒い機体を手に取る。
「ああ、今出発したよ。ん?はは、その心配はないさ。アイツはそんなに器用な男じゃないからね。」

ルシフェルは暫く笑顔を浮かべていたが、ある時を境に急に眉間に皺を寄せ、応答する態度は不機嫌そうなものへと変わった。
「私が人間の女ごときに負けるとでも思っているのか?イーノックの心が揺らぐ事なんて絶対に無いね。賭けても良い。」
それから二言目三言話す内に、ルシフェルはふと思い立ったように眉を上げる。
「ふぅん?良いよ。じゃあ賭けよう、久々に人間と触れ合うイーノックが、浮気をするかしないか。」




「期限は、全てが終わりイーノックがメタトロンになるまで。」





負ける訳が無いと鼻を鳴らしたルシフェルは、そこで漸く通話を切った。
未来は決まっている。堕天使が捕縛されるのも、イーノックが天使になるのも、何もかも。


さあ、勝つだけのゲームを始めよう。