咲いて咲いて切り裂いて


「ああ、お帰りイーノック。」

家に帰ると見知らぬ女性が居間でくつろいでおり、驚いて硬直しているとそんな事を言われた。

「…え?」
何度も瞬きを繰り返す、が、やはりこんな女性は知らない。
どちらさまですかと尋ねかけた所で、彼女が身に付けているシャツとジーンズに見覚えがある事に気が付いて、出かけた言葉を別のものとすり替えた。
「ルシ、フェル…?」
「ん?」
どうしたと目で問われて嗚呼ではやはりと観念する。羽が生えたり空を飛べたりと超能力とでも言わざるを得ない力が使えるのは知っていたが、まさか性別まで変えられるなどと誰が想像しただろう。
額を押さえて黙り込む俺を不思議そうに眺めたルシフェルは、寝転がっていたソファーから立ち上がり近づいてくる。
「イーノック?」
「いや…済まないその…女の姿は初めて見たものだから…っ、て、ルシフェル!」

思わず大きな声を出すと、ルシフェルがびくりと肩を震わせて歩みを止めた。
「まさかその格好で外へ出ていたのか!?」
ソファーから立ち上がった事で漸く気付いたが、ルシフェルは普段の…男の姿の時のままの格好で、…要するにブラを着けていない。
「馬鹿、そんな訳無いだろ。」
ルシフェルは思わずと言った感じで手近にあったクッションを俺へと投げ付けると、それでもまた足りなかったようで数歩の距離を詰めるとこつんと額を小突いてくる。

真っ赤に頬を染めるルシフェルは勿論可愛かったのだが、それよりもシャツの上からでもよく解る小さな尖りから目を離せなかったので、取り敢えず本当に女になったのかを確かめる為に手を伸ばす事にしてみた。