黒仔猫録


ルシフェルはと言えばまるで仔猫のようなもので、気紛れに現れてはまた姿を消して私をからかっていた。
恐らく…いや確実に私の彼に対する肉欲を感じ取っての事だろう。一定以上の距離を詰めないその様子はじれったいと言うよりはむしろ天晴れで、煽られた身でありながら彼の手腕と危険察知能力の高さにただただ舌を巻くしか無かったのだ。

「ルシフェル。」
だがしかし、仔猫だと思えばそれを捕らえる事は逆に容易かった。

興味をそそるような玩具、甘い空間、美味しい食事。
最後の一つはともかくとして、残る二つ関しては彼をよく知る自分であるからこそ入手出来たと言っても過言では無いだろう。
そこまで知恵を作戦を張り巡らせて手に入れた仔猫に自分専用に躾けるその日を、一体どれほど夢見た事か。

唇の端が引き攣ったような、そんな気配を感じた気はしたが、捕まってしまえば後はいとも呆気なく。ルシフェルは結局一言も抵抗せずに私の所有となった。
猫は、愛される事が仕事であるらしいので。