伝う、赤い禁断。広がる果実の芳香。その罪の実は、一体誰のものなのか。


イヴの赤い実

これで何度目だろう。もう回数も覚えていない程だという事だけが確かだ。
「...イーノック」
ぼんやりとした青い瞳は、目前の何ものも映していない。空を見据えただただ虚ろに光るばかりだった。血塗れた頬に愛を篭めて口付ける。
「はやく、帰って来い。私の所に...」
おまえのいく場所は、他の何処にもありはしないのだから。白銀の鎧で手足に枷を付けて。神の名の許におまえを縛って。褐色の身体をそっと抱きしめる。天から延々と降り注ぐ清い光は、永遠に続く生の呪いだ。
真白い光の中、冷たい耳朶に囁き込んだ。
「はやく帰って来い」
「はやく、帰って来い」
「はやく、帰って来い...」
赤い果実を含みかさつく唇へ。過去の全てを、おまえのいない未来を奪う誓いの接吻。おまえの食べたイヴの赤い実は、私が何度でも奪い続けよう。罪の実の行方は私だけが知っていればいい。
そうしてまた、はじまるはじまり。目を開きおまえは微笑む。

(幾度も繰り返すあやまち。何度も、何度でも。おまえがいる未来まで、何度でも)


End or Loop