溺愛関係


「キスと祝福の違いは何だと思う?」
太い首に腕を回し、顔中に口付けの雨を降らせながらルシフェルは微笑んだ。
その寵愛の対照であったイーノックは、突然の問い掛けに暫くぽかんとしていたが、やがて気を取り直すと、首を傾げて尋ねられた内容について考える。
常日頃からルシフェルはこうして自分に唇を寄せてくれ、また、自分も同じようにそれを返してはいるが、それが祝福であるのかキスであるのかなど考えた事も無かった。

薄く笑むルシフェルの頬へと手を滑らせる。
こちらを見つめる赤い瞳がまるで玩具を手にした子供のようにきらきらと楽しそうに輝いており、イーノックは思わず苦笑しそうになった。

ルシフェルがこんな風に自分で遊ぶのは今に始まった事ではない。が、望まぬ返答をした場合の不機嫌と、それに伴う触れられぬ時間だけはどうにも完璧願いたかった。
さて今回はどんな答えを送ろうか。

先ずは額に一つ目の口付け。
「貴方から送られる口付けは全て祝福だ。私はその一つだけで全世界のどの人間よりも強く、また幸福になれる。」
二つ目は鼻先に。
「そしてそれは全てキスでもある。私の男の部分をあっと言う間に狂わせて駄目にさせてしまう。」
だから、と最後に唇を合わせようとした時、反対にルシフェルの方から顔を寄せる。
「ふっへへ、上出来だ。」
そしてまた重なったそれに今度は舌を割り込ませ、上機嫌の二人はそっと寝台に倒れこんだ。