ハッピーエンドって何だっけ


ばちり、と大きな音を立ててタワーの電源が落とされ、周囲は暗闇に包まれた。イーノックはその瞬間、すぐ傍らに立っていた細腰を抱き締めてほぅと息を吐く。
ナンナが隣に居るのは解っていたが、それよりも、全てが終わった事に対する安堵の方が大きかったのだ。
ルシフェルはさして抵抗する様子も見せずに腕の中に納まり、クスクスと小さな笑い声を漏らす。
「お疲れ様。」

金糸を弄ぶ白い指先はどこまでも優しく穏やかで、ああこの指がずっと助けてくれていたのだなと思うと儚げにすら見えるそれがまるで自分の魂を守る揺りかごのように思えて愛しさが増した。
「そろそろ帰ろう。アークエンジェルも一足先に待っている筈だ。」
彼との旅が終わるのは少し惜しい気もしたが、二度と会えなくなると言う訳でも無い。

天から梯子のように降りてくる光を感じると、終わったのだという実感が身体の隅々にまで染み渡る。
再び戻って来る穏やかな日常に思いを馳せるて、ルシフェルを抱き締めたままゆっくりと目蓋を閉じた。