黒記録


他人は私の事を欲が無いだとか聖人だとか言ったが、決してそんな事は無い。空腹を覚えれば殺生だってするし、我儘な部分も多々ある。それに何より、性欲に関しては自分ですら情けなく思うのだ。
赤い瞳に赦しを請うてその肌を貪る我が身の何と浅ましい事か。天使に情欲を抱くなどと言う不敬を働いた上に、その願望を実現のものにするなどと。

愉快そうに私の懺悔と告白を聞いていたルシフェルの表情が焦燥に変わった時、私の中に生まれた感情は羞恥でも後悔でもなく歓びであった。彼の美しい微笑みを崩したその瞬間に沸き上がった征服欲と破壊衝動は、そのまま彼のうつくしいアストラル体に染み込んで広がってゆく。
一度覚えてしまえば後は坂から転がり落ちるかの如くその行為はエスカレートし、遂には彼をどれだけ泣かせ啼かせても離せないようになってしまった。

健気な天使はそれでも神より命ぜられたサポートの任を降りるとは言わず、ただ屈辱に打ち震えて白い身体を縮こまらせる。
果たしてこんな私の何処が高貴であるのか、しかしそれでも彼は言う。私のアストラル体は美しく、人にあらざる信仰心だと。

その甘言に唆されて、私は今日もまた、この旅の記録に黒い闇を刻むのだ。
天界に帰った後、己の罪を己で書き記す事になると解っていても。