むしろ隠せ


俺は知ったね、神様なんてこの世に居ないんだって。だってそうだろう?俺達が一体何をした。いつだって泣きを見るのは弱者であり子供たちだ、こんな横暴が許されて良い筈がない。



保健体育とか言う授業は本来ならば俺達思春期の男子生徒にとってこの上ない楽しみである筈なのだ。それが第二次性徴の項となれば尚更。
なのに、どうして。

ウチの学校の保険医が男なのは仕方が無い。体育教師が一緒に授業を取り仕切るのも認めよう。

だが、何故。

イーノック先生とルシフェル先生がいやんであはんな関係なのは学校中が知るところである。勿論、どっちも男だ。
うん、もう、何て言うかねとんだ茶番ですよね。何故学校で知り合いのホモの性事情など聞かなければならないのか。まともに黒板が見えない。
それは他の生徒達も一様に同じらしく、何処を見渡しても頭を抱えている級友の姿が目に映る。

倉持、妹の本棚に溢れんばかりにBLが並んでたって泣いてたよな。
三枝木、折角好きな女の席に座れたのに聞く話がこれだなんて哀れ過ぎる。
椿原、腐兄だからお前は別だ。

しかし幾ら嘆こうが喚こうが時間と言うものは無慈悲に訪れ、分厚い資料を抱えた背の高い二人組が教室の扉を開くと授業開始のチャイムが響き渡った。
いざ授業が始まってしまえば、配布される避妊具に否応なしにテンションが上がり、皆次々に封を開けて早速眺め回している。調子に乗って風船のように膨らませる奴まで出てくる始末だ。

「コラコラ、幾ら使う機会に恵まれ無いからって遊ぶんじゃない。」

黙れ。

明らかに凍った空気の中、数人の封を開けていない連中の勝ち誇った顔に教室中が殺意を抱いた。勿論それは諸悪の根源である目の前の教師に対しても向けられており、ぷつりと切れた堪忍袋の緒を結び直す気も無い生徒達は、一斉に叫びだす。
「うっせーホモ!」
「使いまくりだからって自慢してんじゃねー!」

しかしそんな皆の叫びも何のその、涼しい顔でさらりと爆弾を投下した。
「ん?私は使わないよ?生の方が気持ち良いじゃないか。」
その発言に焦ったのは隣の体育教師だ。見ていて可哀想な程に狼狽え出し、赤くなったり青くなったりと面白い位に顔色が変化している。

「悔しかったら早く大人になるんだな。」
しかし白衣の悪魔は自らの恋人の反応すら楽しみながら、終には高らかに笑いやがった。


この野郎と唇を噛みながらも、着けないのはさぞかし気持ち良いんだろうなと考えうっかり椅子から立ち上がれなくなった俺達は決して悪くない。嗚呼思春期。