今夜全ての絶望を


「っこの馬鹿!」

何時ものようにルシフェルを押し倒してコトに及ぼうとした所、何故か突然半泣きで殴られ怒られた。
何か彼の気に障るような事をしたかと記憶を辿ってみたが、未だ草の上に寝かせた彼のジーンズを寛げて薄い唇にキスを送っただけだ。無理矢理ならばともかく、合意の上の行為であるし今までにも何度も行っている。こんな風に殴られる謂われは無い。

と言うかこの状況でお預けは本当にキツく、今動きを止めているその行為一つにしたって誉めて欲しい程の自制心が使われている。
文句とか批判とかは後で幾らでも聞くから、兎に角今はこの白い肢体を貪りたい。
「ルシフェル…。」
掴んでいた小さい尻を揉み、ジーンズを引き下ろす。要するにルシフェルをその気にさせてしまえば何だかんだ流されてくれるであろうと、ちょっと強気な行動に出てみる事にしたのだ。

「…っ、一回だ!」
「え?」
「今日は、一回までだ…。」
別にしてはいけないと言う事でも無いらしい、が、一回までとはどういう事なのだろうか。
まぁ良いと言っているんだからお言葉に甘えて頂こうと首筋に舌を這わせ、あまり深く考えること無く行為に沈んでいった。


***


瞼を閉じると先程までのルシフェルの痴態が脳裏に蘇る。ルシフェルを苛めて苛めて漸く吐き出した一回は恐らく相当に濃いものだったのだろうが、それでもたったの一回だ。
内部に埋めたまま煽ってみるも二回目のお許しは出ず、普段は一度に五、六回シている身としてはまだまだルシフェルが足りない。
けれど、あまりしつこく迫って彼に嫌われたらと考えると、取り敢えず今回は大人しく自分で慰めようと未だ熱を持つ昂ぶりに手を伸ばした。

ら。

「お前!何をしている!」
何故か、ルシフェルに怒られた。
彼は少し焦ったような声で叫ぶと、俺の方へと駆け寄って膨張したモノを握っている手を取り行為を無理矢理押さえ付ける。
「一回しか駄目だって言っただろう!」

下半身に籠もる熱は爆発寸前で、ルシフェルから漂う甘い香りや手に触れる細い指、上目遣いに潤んだ瞳のそれら全てが煽る材料にしかならなかった。
「そんなもので納まるか!こっちに来い!」
ついカッとなってルシフェルを引き倒し、乱暴に身体をまさぐる。シーツに投げ出された白い首筋に吸い付くと、先程散らかした赤がまた一つ増えて唇を舐めた。


「やだ…イーノック、っ…。」
しかし再び痣を刻もうとしたその時、不安そうな声が鼓膜を揺さぶり、冷水を頭から被せられたかのように我に帰る。
これじゃあまるでレイプだと慌てて腕を離すと、不安気だった瞳に力が宿り、それだけで殺されそうな程の強い視線で睨まれた。

「あ…済まない…。」
自分の存在が恥ずかしくなってうなだれる。俺は何という事をしてしまったんだろう、愛する天使にこんな乱暴な真似をするなんて。
どんな言葉も態度も今の自分が放っては言い訳にしかならず、かと言ってこの状態のルシフェルを放り出して逃げるのもまた不誠実な気がして、何も出来ずに固まる。
「お前、がっ…。」
ばちん、と大きな音が響き、少し遅れて頬にピリピリとした痛みが生じた。頬を張られた程度で済んで良かったと思う。殴られるよりも罵られるよりも、何よりもルシフェルに居なくなられたらどうしようと言う、それが一番恐れていた事だったので。

「お前が腹上死なんかするからだろう馬鹿!!!」

「え?」

思わず間抜けな声を出した俺に構う事無く、怒りにか何にか肩を震わせるルシフェルの叫びは続く。
「神から貰った力をこんな事に使うなんて、お前に押し潰されながら指を鳴らした私の居たたまれなさが解っているのか!この馬鹿少しは自重しろ!!」


死ぬほど居たたまれないと、先刻は思っていた。

今は、もう、何と言うか、死にたい。

「……本当に、済まない。」
その一言を絞り出すのにどれだけの労を要したか。申し訳なさと羞恥と情けなさで爆発寸前になっている所に、ルシフェルがぺたりとくっつき頭を撫でて来た。
「分かれば良いんだ。」

けれどその優しい声色を聞いて反省したように見せ掛けながら、でもせめて二回は、と思ってしまう辺り、きっともう救えない。