震えるエルフ−SideE


「ルシフェル、可愛い。」
己の仕打ちに抗う素振りすら見せず、従順にその辱めに耐える白い背中に向かってイーノックはうっとりと息を吐き出した。
ただひたすら焦がれていただけのこの大天使と想いが通じるなんて。未だに時々、夢か何かなのではないかと疑ってしまう。

小さく震える身体からは大天使の覇気や気高さは見えず、それどころか娼婦のような淫靡さや初夜を迎える乙女のようないじらしさでイーノックを迎え入れており、甘い声で啼く様は天使と呼ぶより淫魔と名乗る方が相応しそうだ。
愛して愛して愛して、止まないこの天使の肌に触れる事を許されている己の幸福に心が満たされる。

唯一の神に身を捧げ、堕天使の捕縛と言う任を背負っている今は、愛を囁く事なんて出来ないけれど。

それでも、この旅が終わった暁にはと心に誓って、告げる事の出来ない愛の言葉の代わりにまた腕の中の天使の名を呼んだ。