赤裸々カモンベイビー


果たしてこの現状は一体誰が悪いのか。扉の施錠を忘れたルシフェルかそれとも彼の誘惑にあっさりと引っ掛かり、ベッドまでの短い距離を我慢出来なかったイーノックか。いや他人の部屋に入るのに、伺いの一つも立てなかったミカエルだって無罪だとは言い難い。
兎にも角にももうこうなっては後には戻れなかった。例えルシフェルが指を鳴らした所で今の時間軸に居る二人はどうする事も出来ずこの場に残るだけであり、さしもの彼も天界における時空や自分と同じ大天使の記憶まで、そこまで自由に操れる訳ではない。

ルシフェルが誘い、対面座位でイーノックに揺さ振られながら尻を振っていたらこの様だ。幸いにもイーノックの背中が扉の方に向いていたので繋がったその部分こそ見えないが、足首にジーンズを引っ掛けただけの素足が男の腰をホールドしている構図など、余程の幼子で無ければ何の最中であるか簡単に察する事が出来る。

はぁ、と大袈裟に溜息を一つ吐いて、一番最初に口を開いたのはルシフェルだった。
「ノックくらいしたらどうた。膣痙攣でも起こしたらどうしてくれる。」
「膣痙攣だろうがケツ痙攣だろうがご自由にどうぞ。私には関係ありませんから。」
するとミカエルは心の底からうんざりしたような顔と声でそれに返答し、つかつかと足音を立て二人の側へ歩み寄ると、手に持っていた書類を机に置き直ぐに身を翻す。

「え、あ…。」
狼狽しきって漸く声を出すことの出来たイーノックを無視して、ミカエルが部屋を出たのを皮切りにルシフェルがしなだれかかって続きを求める。
きゅうと締める内壁に、せめて鍵をと願おうとした理性はあっさりと溶解し、これが駄目なんだよなと頭の隅で言い訳しながら再び目の前の薄い唇に口付けて律動を再開した。


***


(嫌なものを見た)
部屋を出たミカエルは、大きく溜息を吐くと今し方自分の目の前で行われていた光景に頭痛を覚えて額に手を宛てた。
天使と人間の交わりがどうだとか性別がどうだとか、もっと言えばミカエルが崇高にして清廉なる天使であるとかそんな事は些末な事で。
単純に身内のセックスなど見たくないと言う人間にもよく解るごく一般的な感情でもって彼は嫌悪感を抱いていた。

あの二人は周囲を顧みない所があると言うか何と言うか、外の茂みとかでも平気でコトに及ぶので、今までにも他の天使やら時には神にまで情交の現場を目撃されている。本人達が気付いているのかどうかは知らないが。
アークエンジェルの四人で話していてその話題になった時など、関係無い筈のミカエルの方が悶死しにそうだった。何故兄弟の下半身事情を友人づてで聞かなければならないのか、声が大きいとか喘ぐ内容がどうだとかそんな事など聞きたくない。


彼の安息の日は遠い。