よく焼くよ


「案外あるものだな。」
「…まぁ、何処かに捨てる訳にも行かないからなぁ」

二人の目の前に山と積まれているのは、アークエンジェルの羽、羽、羽。
イーノックの部屋に入り浸るルシフェルの為、彼専用のクッションを作ろうとクッションの中に詰める羽毛を探しに来たのが、この真っ白な山との出会いの始まりだ。
クッションどころか羽毛布団が何組作れるのかと言う量の羽の山から、取り敢えず必要な量を袋に詰めて取り置くと、二人揃ってぼんやりと残りの羽の処遇を考える。

「焚き火でもするか。」
やがて、ぽつりと言葉を漏らしたのはルシフェルだった。
こんな豪華な燃料の焚き火は、他の何処を探してもあり得ないだろうなと思いながらも、他に活用の方法も見いだせなかったので、そうするかと頷いてそこから更に二抱え程白を削り取って、近くの地面へと選り分ける。
気付けばいつの間に取って来たのか、ルシフェルの手には一つの籠が抱えられており、その中には旨そうな芋や野菜が盛り付けられていた。

鳥の羽などは燃やした事が無いが、恐らくこんな風に都合良くは燃えないだろう。
天使達の羽は、火が着くのは簡単だが燃え切るまでには時間が掛かり持ちが良いと言う、燃料として非常に優秀な性能を持っていた。

炙った茄子に息を吹き掛けながらかぶりついていると、ルシフェルが未だ焼けない芋を転がしながら鼻歌を歌い始める。
「何の歌だ?」
「ん?ああ、未来で子供達が歌っていたんだ。焚き火の歌らしい。」
歌詞はどうだったかな、と呟いてから、記憶を辿るようにゆっくりと音階に言葉を乗せていく。
「垣根の垣根の曲がり角、焚き火だ焚き火だ」



「大火事だ」
「!?」
待て何か今物騒な言葉が飛び出さなかったか。

「当たろうか、焼け死のうー「待て待て待て待て待ちなさい。」
続く歌を遮ると、どうしたんだとばかりに目を瞬かせてこちらを見るルシフェルに静かに言い聞かせる。

「多分、その歌詞は間違いだ。」
そう言えば自分が子供頃も妙な替え歌が流行ったなとか、子供のする事は何時の時代でも変わらないのだなとか、そんな諸々よりもああやっぱり天使は素直なんだなという気持ちの方が強く出る辺りよっぽど彼に夢中なんだろう。
何が何だかよく解っていなさそうなルシフェルに、漸く焼けた芋を木に刺して渡すと大人しく食べ始めたので、自分よりも高い場所にある頭を撫でて俺も再び食事を再開した。