バカ、意識しすぎ


どれだけ傷を負っても、何度死んでも。怯むこと無く立ち上がり立ち向かう姿は天使である私にも感銘を与えて心を揺さ振った。
最初は神の命令だからと渋々請け負っただけのサポートを、今では自主的に最高の手段を探して実行しているのがその証拠だ。
今もまた、他愛の無い傷をその身体に見付けたからと言う理由で彼の傍へと降り立ち、その傷を癒すべく顔を寄せる。放っておけば治るようなものであるのに、だ。

「祝福を。」

額に唇を宛てると白い光が褐色の身体を包み、みるみる内にその傷は癒えていく。体力も多少は回復している事だろう。
祝福を送るは初めてだったが、中々良い出来なんじゃあないかなと暫しの間、自己満足に浸る。

と。


イーノックは何故か祝福を与えたその場所を手で押さえて飛び退いた。その慌てっぷりにこちらまで思わず狼狽し、何かいけない事をしたかと不安に駆られる。
しかし、誓って私は額に口付けただけだ。驚かせるような真似をしたつもりは無いし、こんな風に攻撃でもしたかのように飛び退かれるなんて想定外だ。
一体どうしたんだと茫然としていると、イーノックは半ば叫ぶように口を開く。

「こ、こ、これはキスではないのか…!」
首筋まで真っ赤にさせて、まさかそんな事を言われるとは思ってもみなかったので、こちらまで顔が熱くなった。

「い、意識し過ぎだ。祝福だと言っただろう。」
キス?いや違う祝福だ。先刻のは絶対にキスなんかじゃない。
自分に言い聞かせるように乱れた呼吸を整えて、そうか違うのかとぶつぶつ呟いているイーノックに顔を向けた。

「大丈夫か?」
「大丈夫だ、問題無い!」
未だに赤く染まったままの頬に、本当に大丈夫なんだろうなと不安を覚えたが、私がどうこう言った所で聞くようなタマで無いのはいい加減理解している。

…ただ、次のステージに進めたら、その時はちゃんとキスしてやっても良いかななんて、思ったからちゃんと次のステージに進むんだぞ。