この恋、君色


天界には季節感などと言うものは無いが、それでもいつの間にか咲いている花の種類が変わったり木に果実が実ったりとこの場所なりの変化を見せて道行く天使達の目を楽しませている。
その日向かった場所では、大輪の薔薇が咲き乱れてむせ返る程の芳香を放っていた。

「見事なものだな。」
その中の一輪を擽るように撫でるイーノックの瞳は優しくて、まるで自分が愛されているような錯覚に陥り心の奥からふつりと熱が上がる。
「人間は幸せの絶頂にある時、世界が薔薇色に見えるものなのだと未来の書物に書いていた。」
唐突な私の言葉に花を弄ぶのを止めて振り返ると、柔らかい眼差しが降りてきた。続く言葉は予想の範囲内なのだろうが、それでもつい聞いてしまう。

「お前も、世界が薔薇色に見えるか?」
お前の目に、今この風景はどう映っているのだろうか。


「…いや。」
その返事に首を傾げそうになったのは一瞬で、腰を抱き寄せる腕に甘えるように寄り掛かると、続く言葉を待ってその腕を指でなぞる。
「俺の世界は、ルシフェルの色をしている。」

耳に口付けられながら囁かれると、かかる吐息とその言葉の内容に言い様の無いくすぐったさを感じて頬を擦り寄せた。
「なら…。」
「ん?」
「私の世界は、イーノックの色だな。」
私とお前の見ている景色は同じ色じゃないかもしれないけれど、それでも、幸せなのには変わり無い。