今からきみに告白します


イーノックが昇天した。
真っ白な翼に身を包んだ彼はメタトロンと名を変えて、今、まさに生まれ落ちようとしている。


「イーノック?大丈夫か?」
光に包まれた彼は既に立派な天使であるが、それを未だに人間の名で呼んでしまうのは少しの独占欲。息を荒くして蹲るイーノックに慌てて近寄り抱き起こすと、何故かその場に押し倒された。
「イーノック?」
「う…あ、済まないっ…!」
しかし、声を掛けると直ぐにその狼藉は止み、慌てて私の上から退くと両手で顔を覆って力なく首を振る。

「身体、が、おかしいんだ…暫く、一人にしていてくれ…。」
辛そうな様子を見ればそうしてやりたいのは山々なのだが、人間から天使になったのはイーノックが初めてである。原因はおろか、この不調が身体が変化する際に起こる必然的なものなのか、それともイーノックだけがこうして苦しんでいるのかすら解らない。
そっとしておいても構わないのかもしれないが、もしもこのまま放っておいて、錯乱した彼が何かしでかしては大変だ。人間の頃とは比較にならない力が使えるのだから。

「駄目だ、こんな状態のお前を一人には出来ない。」
乱れた髪を胸に抱き留めると、シャツの隙間から胸を舐められた。イーノックの身を襲っている高熱は、体調が悪いからと言うよりは、発情していると言った方が正しいらしい。
彼は必死に己の理性と戦っているようで、私の胸に熱い息を吐き出し、腿の辺りに触れる堅くなったモノを誤魔化すように膝を擦り合わせていた。

「…っ、う…。」
呻く声は本当に苦しそうで。私が居なければ自慰でも何でもして発散出来るのだろうが、生憎私は離れる事は出来ない。その上、私はある意味女でもあるから男であるイーノックの身体が無意識に反応してこの熱を更に悪化させている可能性もある。
と、なると。私の選択は一つしか無い。

「イーノック。いいから、おいで。私を抱きたいんだろう?」
髪を撫でてそう許すと彼は弾かれたように顔を上げ、信じられないと瞳で訴える。一つ頷いてやれば、その瞳がみるみる潤み、ぷつんと理性の糸が切れたように性急に私の身体を貪り始めた。

少しも思う所が無いと言えば嘘になるが、私の身体でイーノックが満足するのなら、まぁ、良いんじゃないかな。


***


正直、多少後悔している。いや後悔と言うには語弊があるか。

少しでも自分の負担が少ないようにと折角下半身を女に変えたのに、女性器を擦られ過ぎて辛いと泣いたら後ろの孔まで犯されるなんて。そんなこと一体誰が想像するものか。全くとんだ性獣だ。
しかし、そもそも良いと言ったのは私であるし、終わってからああだこうだと文句を垂れるのは私の美儀に反するので、大人しく肩を抱く腕の中に納まった。

「落ち着いたか?」
「…済まない、酷くしてしまった。」
ああ全くだ、と喉まで出たが言葉にはせずに静かに奴の髪を撫でる。懐いてくる様子が犬か何かのようで、ああ仕方の無い奴だなぁと思わず苦笑を浮かべた。
許す。しか無いだろう、こんな顔をされては。

イーノックはそれを知ってか知らずか、髪を撫でる手を取ると恭しく唇を宛て、真っ直ぐな目をして私を見る。
「ルシフェル。」
「ん?」
「愛してる。」
「ああ、知っている。」


そうだ。どうして許すか、なんて。お前と私の気持ちが同じだからに決まっている。


「次からは、もう少し手加減してくれよ?」
輝くような笑顔と共に告げられた「大丈夫だ、問題無い。」を、信用出来るかどうかは別として。