アイス食べる?


時を自在に行き来するルシフェルは、ことあるごとに過去や未来の不思議な道具を嬉しそうに見せてくれる。
それは〈ケイタイ〉のように理屈の解らない不思議な機械であったり〈傘〉のように機能美が追求された便利アイテムであったりするのだが、本日の商品はどうやら今までのものとは明らかに一線を帰している。

と、言うか……

「それは、食べ物なのか?」

俺にはどう見てもネフィリムに木の棒を突き刺したようにしか思えないそれを、ルシフェルはいかにも旨そうにしゃぶり、舐め、舌で転がした。
その様子を見て思わず別の情景を脳裏に描いたのは許して欲しい。

「これは〈アイス〉と言うんだよ。」

ネフィリム…いや、アイスを離した唇にはべたりと白い液体が付着しており、止まらない体温の上昇を勢いよく加速させる。

「一口どうだい?なぁに、心配は要らない。知恵の実とは似ても似つかない暗愚な味だ。」

目を細めて誘うのは、きっとこちらの考えていることを全て見透しているから。
唇が言うことを聞かないのは、彼の魔法に引っ掛かってしまったからだ。


「新たなる美味の扉は開けたかい?」

最初に感じたのはひやりとした冷たさ。その次に口の中で弾けるどろりとした甘味。最後に残るのは、咽喉を引きつらせるような舌触りに、鼻腔を駆け巡る芳香。

「確かに旨いな。」


アイスを差し出した格好のままの腕を捕らえてもう一口。


「けれど、扉と言う程のものでもないさ。ルシフェルの方が余程甘い。」

その一言で弾かれたように顔を上げ、悔しそうに頬を染めたルシフェルがとても美味しそうで、抱き締めてから口付けた。