君攻略マニュアル


目蓋を開くと足を滑らせる直前の崖に立っており、ああまた時間が戻ったのかと数度瞬きをしてから、次こそは失敗しないようにと細心の注意を払いながら駆けると足場の途切れるギリギリを踏み切って跳んだ。

「ふふ、上手い上手い。」
今度は無事、次の足場に辿り着く。すると、頭上から心地よい低音と共に何かが髪に触れる感覚が降ってきた。
「ルシフェル、さっきは助かった」
「なに、大したことじゃない。それよりセーブはいいのか?前に記録をしてからかなり進んでいる。」
「一番良いのを頼む!」
そう答えると、良い子だ、とばかりに髪に触れる手が動いて俺の頭を撫でる。振り返って彼の姿を見ると、いつもの黒い板を操り神に話し掛けている所だった。

聞き慣れたやり取りが終わると、機械から視線を離したルシフェルが俺の方へと顔を向けて一言問い掛ける。
「さて、イーノック。次のステージがどうなっているか、教えてやろうか?」

その甘い誘いに、一言。

「大丈夫だ、問題無い。」
旅を始めて直ぐに、俺はルシフェルから個人的に一つの贈り物を受けていた。
『お前が望むのなら、どんなことでも一つだけ、攻略の方法を教えてやろう。』
そう言われた時はそんな事をしても良いのかと驚いたが、何を聞くのか、それを聞いてどうするのかを選ぶのは俺自身であるから、その位のサービスなら神も目を瞑ってくれると微笑まれて何故か胸の奥が熱くなったのを覚えている。

何を尋ねるべきかと考えている内に、気付けば一番知りたい攻略法は、まさかルシフェルに聞く訳にはいかないものであると、そう知った時の罪悪感と言ったら無かった。

どうすれば貴方を手に入れられるかだなんて。知りたくても、聞けない。