天使の羽衣


「見てくれイーノック!漸く完成したんだ!」

そう叫びながら嬉しそうに扉を開いたルシフェルは、書類仕事の真っ最中であったイーノックの前に立つとくるりと一回転してからポーズを取ると、にっこりと微笑んで軽く首を傾げる。
それだけならば普段のやり取りとさほど変わらない日常ではあるのだが、一つだけ違う部分を挙げるとするのなら、その日のルシフェルは彼ではなく彼女であった。

「よく似合っている。黒も良いが、貴方の白い肌には紅もよく映えるのだな。」
ルシフェルが見せびらかした深紅のワンピースは、流石は特別にあつらえただけあってその美しい身体のラインを最大限に生かしており、イーノックの言葉通り彼女にとてもよく似合っている。
彼は思わずペンを置いて立ち上がると、恭しくその白い手を取り細い指先に口付けた。

「ふっへへ。」
機嫌の良さそうな笑い声を認識するとそのまま背後から抱き締め、さらりとした布越しに普段よりも二回りほど小さくなった身体をまさぐる。掌に納まる形の良い膨らみが、嗚呼確かに女なのだと触覚に訴えると、それと同時に身体の奥底から劣情が引き起こされて腰が重たくなった。

しなやかでいつまで撫でていたくなる男の身体も良いが、柔らかで揉み甲斐のある女の身体も悪く無い。同一人物であるにも関わらず、こんな風に色んな姿へと変わるルシフェルに、イーノックは何時でも翻弄されっぱなしだ。

「今は駄目だよ。折角の服を汚したくないからな。」
しかしルシフェルは、そんなイーノックの期待を余所にその腕の中からひらりと逃れると、悪戯っぽい笑顔を浮かべて両手の指を先程まで自分を抱いていた武骨なものへと絡めた。

「夜に、ゆっくり。な?」
おあずけは口惜しいが、こんな風に言って来た日はルシフェルも熱を我慢していて後でたっぷり乱れてくれるのをよく知っている。
取り敢えず今はその可憐な姿を目に焼き付けて楽しもうと決めて、白い肌を流れる布地を慈しむことにした。