いい塩梅


「神、休日を作ろう。」
何故だか全身に怒りのオーラを纏わせたルシフェルは、神の寝所の扉を蹴破るようにして開けると低い声でそう言った。
可愛い天使がこんなに怒っている所を初めて見た神は、何だどうした何事だと威厳も何も無い様子でおろおろと狼狽える。その姿は、さながら愛猫の機嫌を取ろうとする人間さながらだ。

「イーノックが仕事で構ってくれない。」

……ああ。うん。

その言葉を聞いた途端、一瞬にして冷静さを取り戻した神はルシフェルに向かって伸ばしかけていた腕を降ろして膝へと置き、大人しく話を聞く事にした。
「三回に二回は逃げられる私の身にもなってくれ!何が悲しくて十日も一人寝しなければならないんだ今新婚だぞ!」
目尻を釣り上げながらぷりぷりとそう喚くので、押して駄目なら引いてはどうかと助言をすれば、直ぐ様返事は返って来る。

「引いてみてイーノックが仕事ばっかりだったら泣く。」
恋は人を変えると言うが、天使までこうも変えてしまうと言うのか。
「だから休日を作ろう。人間は弱いから、毎日毎日働かせてはいけない。」
駄目押しの言葉は上目遣いと共に神に追い討ちをかける。可愛いルシフェルにこれだけ必死に頼まれれば結局は言うことを聞くしか無く、五日が仕事で一日予備日があり残る一日は完全に休日、と言う一週間のサイクルを作り出した。

「有り難う神!!」
その事を伝えられたルシフェルは満面の笑みで神に抱き付くと、次の瞬間あっという間にその腕を離し、脱兎の如く愛する人間の下へと飛び去る。
微笑ましいその姿に、嗚呼良い事をしたと胸を一杯にして口角を上げうんうんと頷く。後悔は無い。


しかし翌日、ミカエルにルシフェルを甘やかすなとこっぴどく叱られて、早速後悔しないと言う言葉を撤回した。