種明かし禁止


「またその本かい。気に入っているんだね。」

何の他意も無く言っている事なのだろう。恐らくは。
しかし、俺からすれば苛立ちを禁じえない言葉でもある。心が狭いと言ってくれるな。どうしても苦手なんだ、これだけは。


「…一回目だ、この本は。」


おや、と形の良い眉を片方だけ上げて向き直る。読む気が失せたのでこちらも本を置いてルシフェルを見ると、彼は直ぐに笑顔を取り戻して謝罪した。

「いやぁ済まない。昨日も読んでいたのに、と思ってね。そうか君には明日の事だったか。」

同じ言い訳でこちらは何度物語の結末を明かされたか解らない。ミステリーの犯人をさらりと言い放ってしまう人だから、彼の前で本を読むのはいつでも忍耐と精神の鍛練だ。

「…本の内容くらいなら良いんだがな。」

「何か言ったかい?」

わざとらしく聞き返された言葉には答えず、再び本を持ちなおして読書に没頭することにした。


これからの自分達の未来まで告げられては適わないから。