右耳気味


「お前は相変わらず人の話を聞かない。」
むす、と唇を尖らせてすねる姿はただただ愛らしいとしか言い様が無く、いつも通りのそんな文句もその表情に見惚れまた聞き流してしまいルシフェルの怒りを更に助長させた。
「お前は…。耳付いてるのか。」
そう言うなり、首に腕を回して顔を寄せる。耳に暖かい息が掛かったかと思うと、濡れた感触がぬるりと俺の耳を這い回り、軽いリップ音を立てて離れて行った。

直ぐ間近で輝く宝石は赤く燃えており、先程までほんのりと灯っていた怒りと呆れの色が別の燃料で燃え始めたのが解る。
それに誘われるまま、先程ルシフェルがしたように、耳に唇を寄せて舌を差し出した。

耳の縁を舌先で一周した後、複雑な窪みに沿って奥へ奥へと潜り、暗く陰った穴にまでたっぷりと唾液を送り込んで水音を響かせる。
「あっ…ん…。」
ぴちゃ、じゅる、と、わざと空気を含んで、舌ではどう足掻いても捕えられない鼓膜を濡らしていくのは、まるで下の蕾を蹂躙している時のようで興奮が止まらない。
ルシフェルの身体はどこもかしこも薄くて滑らかで、それはこんな耳たぶの先端までそうだった。
「イー、ノック。」
とろけた声に、反対に耳を犯される。

「聞いてる、のか?」
含み笑いを唇で塞いで、貰った言葉は全部呑み込んだ。