ことのは

『あの…どうしても、直接会ってお話ししたい事があるんです。』
突然そんな事を言われ、全く驚かなかったと言ったら流石に嘘になる。
彼の事はそれなりに観察していたつもりだったが、腐っても街の有力者、と言った所だろうか。今回の呼び出しは本当に寝耳に水の話だった。

直接、でなければいけないとなるとさて何の用事なのか。制裁と言う可能性も否定しきれないが、それに関して思う事と言えばやはり一つしか無い訳で。
「これだから人間は面白い。」
くるくると回る椅子の上で一人はしゃいでいると、浪江に汚いものを見るような目で見られた。

***

黒沼青葉が出て来るのは予想通りだったが、まさか紀田正臣と園原杏里の両名まで揃うとは思っていなかった。

青い一群だけでなく、黄色と赤い瞳の群れまでざわざわと蠢く様は『沸く』と形容するに相応しく、まるで第一回の集会のようだと、伝う汗を忘れるべくそんな余計な事を考える。

「何の…つもりかな?」


「ちゃんと、話し合ったんです。三人で。…大事ですよね、話す事って。」

殺気で肌が焼けそうになる。その中でただ一人、静かに微笑む彼がまるで自分の頼れる最後の砦のようにさえ思えて感服した。
ここまで、人の心を掴めるとは。
「貴方には、ちゃんと教えておいた方が良いと思いまして。」
「へぇ…。で、何?制裁でもするつもり?」

そう言うと、きょとんとその人の良さそうな瞳を丸くしてから、さも愉快そうに声を上げて笑いだした。
「まさか、何でそんな事しなきゃいけないんですか。」
お前如き、相手にするまでもないと言われたようで思わず唇を噛む。
その顔は、間違いなくダラーズ創始者としての表情をしていて、俺の背筋をぞくりと震えさせた。

嗚呼、本当に、人間は、君は、面白いね。