第三ボタンの価値


「ろっとぉ。」
少しばかり慌てたようなルシフェルの声が聞こえて振り返る。
切実そうな響きは全く含んでいなかったので、大したことでは無いと思うのだが、それでも彼が驚くなんて珍しい。一体どうしたと言うのだろうか。

「ルシフェル?」
振り向いた先には、あまりその機能を果たしていそうにない薄い服を掴んで見つめている彼の姿。困ったように眉を寄せている様子からすると、何やら問題が起こったらしい。
「そこで引っ掛けて、取れてしまった。」

そう言って見せて来たのは、黒いボタンと普段よりも更に前の開いた衣服。
ルシフェルはいつも上から三つ目と四つ目のボタンを留めているのだが、どうやらその上側、三つ目が取れてしまったらしい。磁器のように滑らかな白い肌が、普段よりまた少し現わになった。

「そんな着方をしているからだ。」
思わず責めるような口調になってしまったのは、許して欲しい。
好きな相手が何時もこんな風に無防備な格好をしていて、平常心で居られる男が一体どれ程居ることか。俺の知らない所で誰かが彼の肌を見ていると思うだけで、度量の狭い嫌な男に成り下がる自分が居る。
しかしルシフェルはそんな俺の困惑も焦燥も気にしていない風に、最後のボタンをぷちりと外した。

「な、何を…。」
「一つだけ留めているのも変だろう?だからいっそ全部外してしまおうと思って。」
どうしてそんな発想になるのか。何故脱ごうとする、逆だろう頼むから二つ目のボタンを留めてくれ。

何も解っていない様子の大天使に、思わず頭を抱えてしゃがみこんだのは仕方が無いと思う。
ああもう、俺に襲われても文句は言うなよ!