じれったい


イーノックの部屋に押し掛けたのに何もしてこない。
先刻からチラチラとこちらを伺う素振りは見せるものの、視線は私のそれとは絡まず基本的に自らの手元でうろうろと彷徨っている。

もっと!ちゃんと!私を見ろ!!
叫びたい気持ちを必死に堪えて会話を続けるも、何を言っても「ああ」とか「うん」とかばかりで一向に視線は捕まらず、その上相変わらず話を聞かない。
私のことを意識してそうなっていると考えれば少しは腹の虫も治まるが、それにしたって目算にして五メートル、決して広いとは言えないこの部屋の中でその距離は遠すぎる。

大体こんな透けたシャツをろくにボタンも留めずに着ているのは何の為だと思っているんだ!お前だお前!お前の為ださっさと襲え!!今なら下着も着けてないぞ!さあ解ったらこの衣服を引き剥がしてお前と言う名の後宮に永遠に繋いでくれ!!早く!!!

そんな事を考えていると、ジーンズのポケットで携帯が震えるのが解った。どうせ神だろう、後で構わないな時間はたっぷりある。
と言うか、神から「いい加減イーノック苛めるの止めろ」とか言うメールが来る度に携帯を叩き割りたくなるのであえて見ない。この生殺し状態でそんな事を言われた日には逆パカ必須だ。

そもそも誰が?誰を?苛めてるって?今から私がイーノックにあんなことやこんなことされて苛められるんだよ未来のデスメタル信者のレイプして下さいと同じだつまりは全部合意だ黙ってろ。

そんな事を考えていると、漸くイーノックがまともに視線を寄越して口を開いた。
「ルシフェル、前々から気になっていたんだが…その服、寒くはないのか?」

碧い瞳がじっと見つめる先は、色の透けた私のシャツ。
そうだよく見ろちくびピンク色だぞ美味しそうだろだからむしゃぶりつけ。お前になら何されても良いから、どんな酷いことされても受け入れるから。ああもう自分で言ってて身体が熱くなって来た、イーノックに酷いことされるとか想像するだけで下半身に熱が籠もる早く抱いてくれ。

しかしそんな態度はおくびにも出してはいけない。あくまでもイーノックから来てくれなければ、上司である私がセクハラ擬いに押し倒しても意味は……いやどうだろうもう良いかな、それも良いかもしれない。

「私は天使だからね、暑さや寒さとは無関係なんだよ。」
何なら肌を触ってみるかと手を伸ばすが、あっさりと断られた挙げ句に奴は椅子から立ち上がってしまった。これでは膝に乗って襲うことが出来ない。

しかし次の瞬間、背後にイーノックの気配を感じて一気に神経がそちらに向かった。え、本当に!?やった!やっと来てくれるのか!!期待に思わず身を固くすると、逞しい腕が肩に近付き。


ふわり、と身を包んだのは白い布。


ちょっと、ちょっと待て本当にちょっと待て。え、終わり?終わりなのか私の期待を返せ。今すぐその身体で。

「済まない、解ってはいるつもりなんだが。貴方が風邪でも引いたらと心配になってしまうんだ。」
困ったように微笑んで、軽く触れた手は何度か髪を撫でると直ぐに引っ込んでしまった。どうやら本当にこれだけらしい、どう言うことなんだ。
取り敢えず今解っているのは、まだまだ先は長い。と言うことだけだ。

馬鹿この童貞EMT愛してる!!!

End

この曲ほんまルシフェルソングだと思う