幼気な携帯


その黒に、嫉妬した。

優しい笑みを浮かべて小さな機械に話し掛けるルシフェルの腕を掴むと、少し待てとまるで犬に言い聞かせるように愉快そうに告げられた。
無理だ、待てない。罪だと解っていても、相手が神だと解っていても、それを見つめる貴方を見るだけで、どうしようもなく。

「イーノック!」
焦ったような声と、黒い機械からどこか遠くに聞こえる神の声。それらの全てを無視して、揺らぐ瞳を押し倒した。
半分に折り畳まれた機械からは音がしなくなり、荒くなった自分の息の音をどこか他人事のように聞きながら、殆ど留まっていない釦を外して肌を舐める。
脇腹を浄化する時のような手付きで撫でると、ルシフェルもその気になってきたらしく髪を引かれてキスをねだられた。切なそうな表情と尖った唇が悩ましい。
薄いそれを噛み付くように奪うと、縦横無尽に舌を巡らせ余す所無く堪能していく。

「ん…あ…。」
舌を舌で舐める。上顎をなぞってから、もう一度舌。舌の下まで味わってから一度唇を離し、またキス。
次は彼の舌を自分の口内に迎え入れ吸い付いた。
「ふぅ…ん、ん。」
右手で平らな胸を揉むように撫で、左手でジーンズに手をかける。その布一枚を取り去れば、下着を着けていない彼自身にはすぐ辿り着いた。
緩く勃ち上がったものを優しく上下に扱くと、先走りの蜜を流して悦び甘い声が響き始める。

「ん、あ、イーノック…。」
「ルシフェル…。」
何度となく唇を合わせると彼の熱も高まって来たらしく、装備を解除すると何も纏っていない背に腕を回してしがみついてきた。
脚を絡め、俺の肌を撫でるように背中の手を滑らせると、期待したように潤んだ瞳はその奥に情欲の炎を燃やしてこちらを見つめる。
きつくなってきたジーンズの前をずらしてから、柔らかな袋をゆっくりと揉む。零れた先走りを使って硬い蕾を解し、指を埋めると、何度も慣らされたその場所は刺激を悦ぶように壁をうねらせる。

と、その時。まるでルシフェルを呼ぶようにガタガタと機械が震えた。
「ん、あ、待て…携帯が…。」
一気に彼の視線を奪われ、この期に及んでまだそれを気にするのかと腹の中に醜い塊が渦を巻いて居座りはじめる。
先ほどだって似たような経緯で中断され、その後どれだけ待たされたと思っているのか。ルシフェルにとってはたっぷりある時間なのかもしれないが、お預けされた人間の男にとっては一秒は一時間で一時間は永遠だ。

暫く触る気を起こさなくしてやろうと、手を伸ばした先の黒を横から掠め取り、柔らかなその部分にそっとあてがう。
「え、やっ、あ、駄目、駄目っ!あっ!」

抵抗を無視し、ぐちゅりと音を立てて震える機体を押し込んだ。

小刻みに振動を繰り返す箱はあっさりとルシフェルを追い上げる。中途半端に硬くなっていた彼の性器は今では痛々しい程に反り返り、いつ達してもおかしくない。
「こんなもので達くのか。」

止めるどころかそれを掴んで動かすと、性器だけでなく内腿までびくびくと痙攣しはじめ、今にも絶頂を迎えそうに震えた。
しかし、解放を迎えるその寸前、まるで謀ったかのようにぴたりと機械の動きが止まる。
「え、ぁ…?」
訳が分からないと目を白黒させるルシフェルは、結果的に焦らされるような形になり、嫌々と首を振りながら舌ったらずな口調で続きをねだった。
「や、あ…やだ、やめちゃ、やだぁ…。」

誘うように脚を開き、覆い被さった俺の腰にそれを絡める。もうこっちも限界だ。
動きの止まった携帯を引き抜いて捨てると、爆発しそうな自身を一息に突き刺す。すると直ぐに柔らかな襞がねっとりと俺を包み込み、甘い声が鼓膜を揺らした。
「あっ、あ、あ、イー、ノック…!!」
「ルシフェル…!」

再奥の壁をゴツゴツと先端で叩き、細い腰を掴んで好き放題に揺さ振る。
「ひ、あ、な、ナカ…熱いの、ちょおだい…!!」
焦点の合わない瞳で卑猥な言葉を臆面も無く言い放つ姿なんて、自分以外誰も知らない。
一際強くなった収縮につられるようにして、同時に白濁を吐き出した。

絶頂を迎えて力を抜く彼のナカから出ていくと、小さく呻かれてまた熱が上がりそうになるが、それを我慢して抱き締める。
すると、呼吸を整えた彼がはっと気付いたように振り返り叫んだ。
「携帯!」

俺の腕を振り払ってそれを引っ掴み画面を開くと、ぐっしょりと体液に塗れた画面は真っ黒で、何度ボタンを押しても光が灯ることは無かった。
ルシフェルの顔からさぁっと血の気が引き、物凄い勢いで怒られる。
「あああああ……。馬鹿!この馬鹿!」
「す、すまない。乱暴に扱ったつもりは無かったんだが…。」
「濡れたら壊れるに決まってるだろ!」
「そうなのか!?」
「ああ、もう、馬鹿!…神に何て言い訳すれば良いのか…。」
初めて知った事実に驚いていると、ルシフェルは青ざめた顔のまま手早く後始末を行い、光の速さで未来へと向かってよく似たものを手に入れてきた。
暫く新しい方のボタンをカチカチと押したり、使えなくなった方の携帯から何か部品を移したりしていたが、一段落付いたらしく動きを止めて息を吐く。

ともかく謝ろうと声を出そうとした、丁度その時、受信ランプが光ってメールの到着を告げた。

ルシフェルは声にならない叫びを上げながらその場に崩れると凄い目で俺を睨み、「もう、二度と、触るな」と地の底を這うような低い声で告げる。
普段のルシフェルが見せない表情に少し怯え、もう決して触るまいと心に誓った。






From:神
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題名:機種変おめでとう
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内容:でも時代は防水だと思うよ^^それにしても未来の携帯は多機能だね^^びっくりだね^^
あとさっきの電話の用事はもう済んだからかけ直さなくていいよ^^