貴方が幸せならば、それで構わないのです。



A minute



「帝人っ・・・」
黄色いマフラーを巻いたあいつが帝人先輩に駆け寄り抱きしめる。そのすぐ後ろを駆けてきた杏里先輩も、感に堪えないようその二人に寄り添った。
熱烈な抱擁を受け帝人先輩は幸せそうに、それは幸せそうに微笑む。
「お帰り正臣・・・お帰り」
「っ、ただいま」
泣くのを堪えるように三人で手を繋ぐ。青赤黄。綺麗な輪。でもその青はもう俺達の青じゃない。
「・・・こいつらの所為で、帝人は」
俺達と、俺と帝人先輩の何も知らないくせに、あいつは俺を、俺達を見下ろし睨む。
骨を折られ、肉を裂かれ、屍々累々と地に伏せたブルースクエアのメンバーを。
そうなるよう仕組んだ当人は、それはそれは痛ましそうに、可哀相な被害者を見る、この惨状に自分は一切関与していない目で沈痛な声で言った。
「・・・もう、いいんだ。正臣は帰ってきたんだから」
その台詞にあいつは帝人先輩の甘さを咎めるように、けれどそれでもその優しさを愛おしむように見詰めた後「おまえがそういうなら」と呟き僅かに俯いた。
その目には映っていないんだろう。
冷静に、物体を観察するような眼差しで俺達を一瞥し「だからもういらない」と微かに唇を動かした帝人先輩は。
「帰ろう、正臣。園原さん」
「そうだな」
「っはい」
三人は仲良く並び、俺達を捨て置いたまま外に足を向ける。杏里先輩とあいつの顔に浮かぶ泣き笑い。帝人先輩の顔はそれを見てそっと笑みの形を象った。
にこりと穏和に、優しく。俺が従おうと決めたあの普段通りの微笑みを。
ああ、良いんです帝人先輩。良いんです。俺を利用し酷使しその揚句壊れた道具のように捨ててくれて。
でも、でも。
きっとこちらを、俺の方を。いつかきっと振り返ってくれると、信じて待っていても、良いでしょう?
意識の飛ぶ寸前のほんの一瞬、俺の目の中に映る先輩はそれでもいつものように微笑んでいた。


END