遺伝子


どうしても、どうしても我慢しきれずに、ルシフェルを押し倒した。
二人切りの旅の途中、小さな洞窟の中で。

此処なら天からも見えないだろうと言う浅ましい考えで、彼の滑らかな白い肌に欲情し、身勝手な欲望を持って。俺を信じきっているかのように微笑む彼を冷たい大地に縫い付けた。

「イーノック?」
不思議そうな表情を浮かべたのは一緒で、堅くなった俺の下半身に気が付くと、困ったように眉を寄せて唇を開く。
「…イーノック、私は…」
その唇を自分のもので無理矢理塞いで黙らせる。同時に、開かれていた口内に侵入すると、冷たい舌に吸い付いてそれを貪った。

「ん…ん。」
甘い息が漏れ、抵抗しようとしていた手は縋り付くかのように俺の腕を掴んでいる。
「ルシフェル、愛している。ずっと愛する貴方の近くに居て……もう我慢が出来ない。」
口付けをした時から頬を染めていたルシフェルは、その言葉に耳の先まで真っ赤に染めると、内腿をもじもじと擦り合わせながら視線を反らした。
「気持ちは嬉しいが…。」

その態度に気を良くして頬に手を添えると、やんわりとこちらを見るように仕向けて囁いた。
「どうしてもルシフェルが欲しいんだ。優しくする。」
泳ぐ視線はきっと迷いの証。駄目押しでそう言い見つめると、腕を掴んでいた手が恐る恐る背に回り、ぼそぼそと何か言う声が聞こえた。

「……んだ。」
「ん?」
「その…ネフィリムが生まれてしまうから、女性型にはなれないんだ。」
紅い瞳を見つめると、それは切実そうに潤み眉は悲しそうに下がっていた。俺はルシフェルがルシフェルであるのなら、男性型であろうが両性型であろうが構わないのだが、男性型のままでは彼に不必要な負担をかけてしまうのも事実。
想いが通じ合っていると解った今、尚更その壁が憎い。

しかし、それに続いたのは予想外の言葉で。
「だから、男性型のままだけど…良いのか?」
震えながらも力の入った背中の手に、理性の糸が音を立てて切れ、引き裂くように服を脱がせて襲い掛かった。

「大丈夫だ、問題無い。俺は女とか天使とか関係無く、ルシフェルを抱きたいと思っている。」
「イーノック…!」
嬉しそうに微笑み明け渡してくれたその身体を好きなように堪能しながら、もし俺が天使になれれば子供が作れるのかな、なんて思ったのは、彼には内緒だ。