ふわふわ暖かな陽気、植物の青臭い匂い。微かな鳥の囀りと風に揺れる草野原。そんな緑の波の中、ゆるゆると腹部を撫でるルシフェル。
「どうかしたのか?」
座り込む彼に近寄り静かに見下ろす。腹を撫でているという事は腹痛だろうか。別におかしなものを口にしてはいなかったと思うのだが。
心配になり俯きがちな顔を覗こうとすると、ふわりと顔を上げルシフェルは幸せそうに言った。

「花を育てているんだ」

見てみるか?とルシフェルが柔らかく微笑むのにつられ、俺は何を考えもしないままゆっくりと頷く。
優しく奥を覗いてくれ。そう言って彼は口を開いた。ぽっかりと広がった赤い咥内をそっと覗き込む。
真っ白に並んだ歯。僅かに震える舌を苦しくない程度に緩く指で押さえ目を凝らす。薄暗い喉の奥にぼんやり見えるそれは。
「・・・綺麗だ」
黄金の、太陽の色をした花弁。そよそよ揺れる緑の茎。ルシフェルの狭い胎内でしっかりと根を張り、見事な花を咲かせていた。
「俺も欲しい」
ルシフェルにそう告げれば、一瞬驚き目を丸くしたが直ぐさま満面の笑みになり勿論良いともと頷いた。
薄い唇が俺の唇に触れ、ねっとりと舐め上げ開口を促す。誘われるまま開くと柔らかい舌と共に固く丸いものが押し込まれる。
こくん、と喉を通る温かな種。
「大切に育てるんだぞ」
小さな子供を諭すように言われ、それに素直に頷き己の腹を撫でると、ぽこりと種の芽吹く音が聞こえる。ひどく、幸せな気分だった。
俺の中で咲くのはきっと、夜明け前の、黒い色をした花だろう。



END