朝になれば


「あ…イーノック…もうっ…!」

涙声でルシフェルが懇願する。その音量は蚊の鳴くような小さなもので、擦れた喉は息をするだけでも苦しそうに引きつった。
しかし、イーノックはそんな切ない声が聞こえなかったかのように更に腰の動きを早めると、握っていたルシフェルの性器を扱きあげる。

声にならない声と共に、ルシフェルが一際大きく震えた。

イーノックの手に吐き出されたそれは、何度と無い絶頂にその本来の性質を失い、透明でサラサラとしており量も少ない。
柔らかく震える後孔はイーノックの放ったものが溢れる程に注がれており、僅かに腰を揺らしただけでシーツに滴を落とした。

「も、う……こんな…おかしく、なるっ…!」

その瞳からは既に涙は枯れ果て、乾いた目の縁は赤く擦れている。ごそごそと動く腕はイーノックの手によって後ろで縛られており、時間を遡ることが出来ないよう丁寧に指の一本一本まで固定されていた。
「狂ってしまえば良い、何もかも捨てて、俺しか見えないように。」

優しく肌を撫でていた手が、胸の尖りに辿り着くとそこにキツく爪を立てる。
「ひっ!」
「こんなに感じている癖に、嫌だなんて。」

ねっとりと耳を舐めると、イーノックを受け入れているそこがまたきゅうと締め付けてうねった。
「何も考えなくて良い、ただ、俺を感じてくれていれば。」
底の見えない碧い瞳に、ルシフェルは諦めたように目蓋を閉じた。


***


うつ伏せになってベッドに寝転がっているルシフェルがDVDを片手に微睡んでいると、シャワーを浴び終わったイーノックが髪を拭きながら近付く。
「大丈夫か?」

ルシフェルはDVDを放り投げると、腕を伸ばして抱擁を求める。
「大丈夫だ、問題無い。」
イーノックは普段の自分の口癖を言われて思わず笑うと、伸ばされた手を取りぐるりと見回した。
気を付けたつもりだが、万が一この美しい肌に妙な跡でも残ると大変だ。しかしどうやらその心配は杞憂に終わったようで、安心してその腕の間に入り抱き締める。

「たまにはこんな嗜好も面白いものだな。お前の新しい一面が見てた気がするよ。」
愉快そうに笑ったルシフェルは、先程枕元に投げ捨てたDVDへと視線を送った。
『緊縛奴隷〜素人調教120分スペシャル〜』と言う文字が大きく書かれたそのパッケージには、縛られた女が涙を流しながら犯されている写真が貼りつけられている。
逞しい腕に甘やかされながら先程の狂宴を思い出し、相手に見られぬように薄い唇をぺろりと舐めた。その表情は、まるで腹を満たした肉食獣。
ルシフェルの考えている事は、きっと神にも解らない。


朝になれば遊びはおしまい。