あんまり殺しちゃ駄目だよ


「お願いだイーノック、止めてくれ!」
地面へと縫い付けた後、シャツに手をかけるとルシフェルは俺のしようとしている事が解ったらしく、いつもの緩い笑みを焦りの表情へと変えて激しく抵抗した。

見た目の細さ通りに非力であった彼の自由を奪うことは容易く、向こうが見える程に薄いシャツを引き裂くとあっと言う間にその白い肢体は露になる。布の切れ端が彼の身体を擦る度に、淡く色付いた胸の飾りがつんと尖るのが見えた。


「こんな事、神がお許しにならない!」
首を振りながら懇願する顎を有無を言わせない強さで捕えて、無理矢理に視線を合わせる。
嗚呼そうだろうとも、神はこんな誠実でない行為を許す筈が無い。けれど今の俺にとってはそんな事構いはしないんだ。大切なのは一つだけ。

「神ではなく、貴方の気持ちはどうなんだ?」

言い切った瞬間、解りやすい程に揺らぐ朝焼けの色はどうにか俺のそれと重なるのを避けようと右へ左へ狼狽える。

「…私の、心は……神の御心と共にある。」


嗚呼、貴方が遠い。

「イーノック!!」

叫び声はわざと無視した。
指を鳴らさないように掌同士を絡ませ合い、首筋に舌を這わせると、所々で吸い上げ赤い華を散らす。

白い身体は俺の腕の中で艶めかしく踊り、それを耐えるかのようにぎゅっと瞳を閉じて見せるも、熱くなる息は隠せず首筋に当たる。唾液でたっぷりと濡らした指を彼の秘められた部分に潜り混ませ、傷付けないよう細心の注意を払ってそっと動かした。

「ふっ…う…。」
強張る身体は指先の侵入を拒み硬く閉じていたが、どうにか目的の場所を探り出して撫でると次第に身体から力が抜け、快楽に腰が揺れる。
赤く染まる身体が絶頂を迎える寸前、指を引き抜いた。
「っ!」

信じられないものを見るような目が、無言で俺を責める。が、それはほんの一瞬の事で、自分が何を言おうとしたのか思ってしまったのか、気付いたらしく顔を真っ赤にしてからつやつやと唾液で光る唇を噛んだ。


自分に出来る最高の優しい声色と微笑みで、言い聞かせるように問い掛ける。
「どうして欲しい?ルシフェル。」

見開いた赤が涙で滲む。

肩を震わせ静かに涙を零して、彼は覚悟を決めたように小さく懇願した。

「…抱いて……。」

言葉にした後は抵抗が止み、口付けは素直に受け入れられ舌が重なる。
柔らかく解れたその部分を一息に貫くと背が弓なりに反り、待ち望んでいた刺激に身体は歓喜の声を上げた。
「ああっ!!」
「ルシフェル、愛している。貴方以外何も要らない。」
「うっ…あっ……っ!」

聞こえよがしにぐちゅりと胎を掻き混ぜれば、幼子がむずがるように頭を揺らして快楽から気を逸らそうとする。

「私は……私は…」
「何も言わなくて良い。」
唇で唇を塞ぐと、求めるように舌が差し出され、拘束していた手を放せば直ぐにそれは背に回り縋りついてきた。

まるで彼に受け入れられているような錯覚。嗚呼、今、俺は涙が出る程幸福だ。


***


上がっていた息が整った頃、裸のままの彼の手を取って懇願した。

「ルシフェル、俺を殺してくれ。」

濡れた瞳が俺を捉え、絶望したような暗い色を含んでその紅を見開くと緩く首を振って雫を落とす。

「何を…そんな事、出来る訳が無い……。」
「また、貴方に酷い事をしてしまう。自分が押さえられないんだ。」
祈るように、縋るように。手に口付けを繰り返してそう告げる。これ以上、ルシフェルを苦しめる事なんて出来ない。


「お前っ…は!!」

その手を振り払われたかと思うと、バチンと音がして頬に衝撃は走った。
殴られるのも当然だ。身勝手なのは、理解している。

「馬鹿!この、大馬鹿!!」
再びボロボロと涙を流し始めたルシフェルの顔は真っ赤で、彼がこんなに激昂するのは初めて見たかもしれないとどこかぼんやりと考えた。

「私っ、が、何で黙って抱かれたと思っている!」
「嫌がる貴方を俺が無理矢理…「違う!」
髪を捕まれ引き寄せられると、唇が触れる。何故、と問う間も無く更に言葉は続く。

「大天使を舐めるな。」
睨む赤は強い意志を孕み、逸らす事が出来ない。

「全部、お前の責任だ。死ぬなんて許さない。私と一緒に堕ちるんだ。」

良いのか、本当に?

小さく頷いた細い身体を掻き抱いて、離さないと力を込める。嗚呼、もう、何も要らない、貴方以外は、何も。