渇望と呼ぶには尊すぎた


イーノックが私を見ている。
その視線は真っ直ぐで、一切の汚れも欲も感じられない。

汚れているのは、私。

この純粋で真っ白な男に、弄ばれたい、詰られたい、酷いことをされたい、はしたない格好で恥ずかしい言葉を強要されたい。
そんな醜い感情がどろどろと身体の中を駆け巡って心を軋ませる。
彼は勿論そんな事を知る由も無くて、黙っている私を心配そうな表情で見つめていた。

「ルシフェル?」

その音の一つ一つにすら欲情して、もっと名を呼んで欲しいと心が震えた。

「どうかしたか?」
「…何だか、辛そうな顔をしている。大丈夫か?」

いつものお前の口癖を返そうかと思ったけれど。

「…少しだけ、こうしていても構わないか?」

優しいお前に甘えるように、その逞しい胸板に顔を寄せて抱きついた。
…何もしていない、抱きついただけだ。

ギリギリの境界線上、その浅ましさに、背中が黒く濁っていくような気がした。