永遠を語るその口で


堕天使達を捕える旅に出掛けて早数日、ルシフェルは予想もしていなかった出来事に頭を悩ませていた。

「ルシフェル、好きだ!」
「だからお前はもっと人の話を聞け!」
「ルシフェルは人じゃなくて天使だろう?」
「揚げ足を取るんじゃない。」

今日も使役獣を次々と倒していったイーノックは、体力の回復と鎧の補修をする為に待機していたルシフェルの元へと向かうと、開口一番そう言った。
毎日毎回同じ台詞の繰り返しで、ルシフェルはもしかすると気付かない内に自分が時間を巻き戻しているのではないかという錯覚に陥ったが、実際には至って順調に旅は続いている。

ただ、イーノックが繰り返しているだけだ。

「ルシフェル、俺は貴方を愛しているんだ。」

直った鎧を確認する為にルシフェルが近付くと、再びそう告げる。

「分かった分かった。」
「分かってない!」

逞しい腕で細い身体を抱き締めると、耳元で熱い吐息を吹き掛け囁いた。
「愛しているんだ。誰よりも。」
ぞくり、と背に何かが這い上がり、ルシフェルは思わず身を震わせる。何とかその場から逃れるべく力を込めたが、圧倒的な体格差の前ではその抵抗は赤子がむずがるようなものに過ぎず、反対にイーノックが更に腕の力を強め益々そこからの解放は困難なものとなった。

「…ルシフェル。」
甘い囁きと共に耳を噛まれ、ルシフェルは全身を固くさせると唯一自由になる足を必死に動かして抵抗した。

「…っ!!」

がつ、という鈍い音と共にイーノックが呻きその場にしゃがみこむ。どうやら向こうずねに直撃したらしい。
腕の拘束から逃れたルシフェルは素早く距離を取ると、普段の白い頬を真っ赤に染めて叫んだ。

「私まで堕天させる気か!」

離れた場所からイーノックを伺うと、未だに座り込んだままの彼は涙を浮かべた目で見上げルシフェルをじっと見つめている。
その視線に、蹴られたからだけではない痛みを感じた気がして。

ため息を吐くと、ゆっくりと近寄って頬に手を当てた。


贈られたのは、額に触れる優しい口付け。


「これは、祝福だからな。」

たったそれだけの事でみるみる顔を輝かせるイーノックに見えない位置で、ルシフェルも万更でなさそうに小さく笑みを浮かべた。

end

き、キスじゃないんだからねこれは祝福なんだからね!って言うのがしたかった。