千夜に降る雨4


「何よ、私は――」
「お前、目が見えないのか」
 雷の唐突な言葉に、ちよは目を見張った。雷が先程感じた違和感はこれだった。さも普通の人間と変わらないように振る舞ってはいるが、目や顔の動きがどこかちぐはぐなのだ。
 だが、何よりそれを確信した理由は彼自身の出で立ちにあった。深い木々の隙間をぬって射し込む光のような金の髪。森をそのまま写し込んだような新緑の瞳。そして背にまとう大きな灰色の翼――彼は山に住むと言われる天狗そのものであった。山の神として崇められているその姿を見れば多少なりとも取り乱しそうなものである。しかし彼女は普通すぎるのだ。
「……驚いた。村の人以外にばれたことないのに」
 目を丸くしてちよは言った。確かに、何も知らない者なら彼女が盲目だなどとはまず思わないだろう。ちよの演技は完璧だ。出会ってすぐに気付いたのは雷の人ならざる鋭敏な感覚故だ。
「そう。全く見えないのよ。でもその分気配を読むのは得意なのよ」
 そう言う彼女の声は明るいが、その裏の苦痛は容易に想像できた。人は自分と異なるものを遠ざけたがる……彼女の演技もそういった理由から身に付いたのであろう。
「……で、目も見えぬお前が、何故わざわざ危険を冒してこんな山奥に来たのだ?」
 違和感の正体が判ったところで、雷は再び問い掛けた。



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