恋月想歌22
「いや、まぁ……一緒に生活するうちに情が移ったというか、早い話が惚れてしまったんだよね」
「……えぇ!?」
思いもよらぬ方向に話が転び、リムは素っ頓狂な声をあげた。人を害する筈の、相容れない存在であるヴァンパイアが人を愛するなど。驚愕するリムを横目に、レストはどこか照れたように微かな笑みを浮かべた。
「マリアも同じと言ってくれた。幸せだったよ、短い時間ではあったけど」
人は私達と比べると短命だからね――そう、最後に呟くように付け足した彼は、笑みの中に愛おしさと寂しさとを混じらせていた。
その横顔が、ひどく綺麗だと思った。彼がマリアを愛していたことに、疑う余地はないのだと悟る。嘘でこんな顔は、きっと出来ない。人を襲う背徳の化け物は、こんなにも儚げで優しい笑みの人だった。マリアもきっとそんな笑顔に惹かれたのだろう――それは我が身を持って理解できるのだ。たった今知った真実が、胸をチクリと刺した。
「やがてマリアが死んで、私がその後も人間の血を飲もうとしないのがディアンは気に入らなかったみたいでね」
血を飲めと迫るディアンから逃れようとレストは姿をくらませ、呼び掛ける声にも決して応えなかった。それに業を煮やしたディアンが目を着けたのが、かつてマリアが過ごした村――イーゼだったのだ。
「私もまさか、ここまでやるとは思わなかったんだけど……私はこの村を壊されたくなかったから、どうにかしようと思ってね」
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