恋月想歌20
「では、聖女を直接知っているんですね?」
レストは静かに頷いた。
「自分で言うのも変だけど、私は穏健派でね。森に来る人間の血を死なない程度に貰ってたんだよ……まぁ必然的にイーゼ村の人が多かったんだけど」
「じゃあ、殺してた訳じゃないの……?」
自分が読んだことのある書物では、さも殺戮の限りを尽くしたかのように書かれていた。しかし、伝え聞くよりずっと穏やかなレストを見ていると、それが事実なのだろうと思える。
「まぁ、向こうにしてみれば同じようなものだったんだろうね。ちょっと気を失ってもらったりはしたから」
血を分けてくれと言って素直にくれる人間も居ないしね、とレストは苦笑した。それでも伝説の中のヴァンパイアとは随分差があると感じた。そもそも背徳者、化け物と描写している聖書が間違いだったのではという気さえしてくる。
「それで私の事をどうにかしようとイーゼで決められたらしくて。生け贄、という名目で私の元に来たのがマリアだった」
レスト曰く、マリアは遠方の国から連れてこられた奴隷だった。身寄りのない彼女は生け贄にはうってつけで、彼女を捧げるから村の人間には手を出すな、ということだったらしい。
「……村で伝わっている話と随分違いますね」
生け贄、という単語を反芻してリムは顔を歪めた。レストの話を聴く限り、神の力を授かった聖女など存在していないではないか。
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