恋月想歌19





「彼――ディアンはね、私の弟分みたいなもので、小さい頃から私がよく面倒を見ていたんだ」
 時折目を伏せながら、遠い記憶を慎重に手繰り寄せるようにレストは語り始めた。いくら拒否したところで彼が立っているのもままならない状態である事実は変わらず、結局二人で聖女の銅像にもたれ、地面に座り込むという形になった。この体勢の方が幾らかは楽なようで、レストの顔色は先程よりはマシに見えた――蒼白である事に違いはなかったけれど。
「彼はよく慕ってくれたし、私も彼が可愛かった。だから悪いことをしたとは思うんだけど……私にはマリアとの約束があったから」
「マリア……」
 思わず復唱する。幾度となくレストが口にしているその名前は、イーゼ村の聖女マリアと関係があるのだろうか。
 リムの呟きから疑問を察したのか、まずはそこから話そうか、とレストは笑った。
「君の話してくれたヴァンパイア伝説があるだろう」
 そういえば聖堂でそんな話をしたと、リムは頷いた。その時はまさか目の前に居るのが本物のヴァンパイアだとは想像もしなかったが。
「事実と違う所は幾つかあるけど、あの話のヴァンパイアは恐らく私のことだ」
 やはりか、とリムは思った。西の森に住んでいる、ヴァンパイア。予想できる要素はいくらでも合った。気づかない方がおかしいのだ。疑問があるとすれば、なぜ聖女が葬ったはずのヴァンパイアがここに居るのか、という点である。それが彼の言う“事実と違う所”に掛かってくるのだろう。



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