恋月想歌18
「彼は――」
リムが異変に気付いたのは、レストが口を開いた時だった。妙に声が掠れている。それに、やけに顔が青白くはないか――予想は的中した。
「レストさん!」
更に言葉を紡ごうとする前に、すべての力が抜け落ちたようにレストの身体が前に傾いた。咄嗟に支えることには成功したが、伝わる体温は酷く冷たく、瞳は焦点が合わず空を彷徨っていた。立っているのも相当辛い状態の筈だ。
「……すまない。少々無理をしすぎたようだ」
数秒、呼吸を整えたレストは苦笑した。その声さえ消え入りそうなほどか細い。
「休みましょう。教会の部屋なら空いていますから」
「……優しいね、シスター。私はヴァンパイアだよ?」
人間、ましてや神に仕えるものなら大敵だろう。言外にそう告げるレストに、リムはかぶりを振った。
「村人を害していたのは貴方じゃないんでしょう? それに私を助けてくれました」
今やレストは完全に擬態をとき、紅い目を隠そうともしていない。事情を知らない村人が見れば騒ぎになるかもしれないが、幸いなことに深夜で人影はない。それはもちろん教会も同じことだ。だから早く、と休息を促すが、レストは拒絶した。
「遠慮するよ。正直、教会だとかはやはり居心地が悪くてね」
直接の害はなくとも、己を背徳者と呼び敵視する場所など居心地が良いわけがない。そうは言ってもと、なお食い下がるリムの言葉を遮り彼は言った。
「明朝にも、私の命は尽きるだろう」
唐突に言い放たれた内容に、リムは息を飲んだ――同胞が消え行くのを、と。そう言ったディアンの姿が蘇る。
「……だから手短に此処で話そう。全部ね」
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