恋月想歌17
静かな、それでいて反論を許さない強い声だった。ディアンの顔が、歪む。
「……そこの人間だって真実は知らないのだろう。それでもか」
侮蔑も露にディアンはリムを見た。真実、というのが何を指しているのか解らなかったが、刺すような視線にひたすら耐えた。
「関係ないよ。ただの私の自己満足だ」
自嘲するように、レストは言った。
「頼むよ。同胞だからこそ、望んだ最期を静かに見送ってはくれないか」
それは懇願だった。背後のリムに彼の表情は分からなかったが、それを聞いたディアンの顔が一瞬で悲しみに染まるのを見た。つい先程まで自分を殺そうとしていた相手だ。それなのに胸が痛む――それほどまでに、悲痛だった。
「愚かだ……人間も、貴方も」
「……すまない」
ディアンは何も言わずに踵を返すと、音もなく闇へと溶けていった。広場に何事もなかったかのような静寂が戻る。
「……あ、の」
――どうやら脅威は去ったらしい。しばしの逡巡の後そう判断したリムは、恐る恐る目の前の青年に声をかけた。レストは柔和な笑みを浮かべ、振り返った――教会で目覚めた時と同じ、笑みを。
「もう大丈夫だよ。怪我はないかい?」
この人は大丈夫だ。その微笑に確信を深めたリムは、ようやく安堵の息をついた。
「はい……あの、今の人は?」
言いながら、そっと地面に残されたままの少女の遺骸に目を向ける。しかし居たたまれないような気持ちになってすぐに顔を背けた。なぜこんな惨いことをしたのか。いったい何者なのか。それになぜ聖女の名が出てきたのか。疑問が多すぎて、うまく口にできなかった。視線で訴えかければ、全て承知している、といった様子でレストは小さく頷いた。
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