恋月想歌6
「……少し奥まった所に住んでるから知らなくても無理はないかな。意外と住みやすい場所なんだよ」
疑問が顔に出ていたのか、リムが何か言うより早く青年はそう答えた。
「ところで、シスター」
「は、はい?」
そんなに露骨に不審そうにしてしまっただろうか、と考えこみそうになったところで声を掛けられ、リムは上ずった声を上げた。
「私の名はレスト。少し調べ物をするのにイーゼに来たんだ。暫しの滞在を許してもらえるだろうか?」
青年は丁寧にそう言うとうっすらと微笑んだ――それはとても優しく、そして悲しげで、綺麗だった。一瞬、我を忘れて見とれる。心臓が大きく跳ねたのが分かった。
「……ええ、もちろんですわ」
動揺を悟られまいと、出来るだけ平静を装って声を絞り出した。恐らく、あまり意味はなかっただろうが。
「滅多に使われない部屋ですし、ここはご自由にお使いになってくださって構いません。何かお困りの事があればお申し付けください」
「あ、あぁ……ありがとう」
捲し立てるように一気に喋ると、リムは足早に部屋を出ていった。
「……少しだけ似てるかな、彼女に」
一人残された青年は、閉ざされた扉をどこか遠い目で見つめ、そう呟いた――。
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